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ICTとインストラクショナルデザイン — 道具ではなく設計の話

区分4 言語と教育 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

ICTの領域は「新しい道具の話」に見えますが、試験で問われるのは道具そのものではなく、それを何のためにどう配置するかという設計の考え方です。学ぶとはどういうことかという捉え方がどう移り変わったか、授業を設計するモデルにどんなものがあるか、離れた場所で学ぶときに何が起きるか。この3つを押さえると、細かい用語はその上に並びます。

ITからICTへ — 道具の変化と学習観

1990年代によく使われたIT(情報技術)は、一台一台のコンピュータで情報を処理することに重心がありました。2000年代に広がったICTは、そこに通信技術が加わった言い方で、つながること・共有することを含みます。「ITとICTは同じものの言い換えにすぎない」とする選択肢は誤りで、通信を含むかどうかが分かれ目です。

現在のICTの道具立ては、デバイス、基本ソフトや応用ソフト、オンラインサービス、LMS(学習管理システム)などの学習支援システム、学習用アプリ、そして生成AIといった層に分けて考えられます。このうち学習支援システムの層は、教材の配信・課題の提出・学習履歴の記録をまとめて引き受け、非同期の学びを支える基盤になります。動画や資料を置く場所というより、誰がどこまで進んだかを教師が把握して手を打てることに意味があります。

使う側に求められる力も整理されています。教師のICT活用に関する資質は、情報活用能力(自分がICTを使いこなす)・情報モラル(自分が著作権や個人情報を適切に扱う)・情報活用指導能力(学習者の活用を指導する)・情報モラル指導能力(学習者にモラルを指導する)の4つに分けて示されます。自分が使う面学習者に指導する面の2方向に、それぞれ「活用」と「モラル」がある、という組み立てです。「使える」ことと「教えられる」ことは別だ、というのがこの4分類の要点です。

道具の変化と並行して、学ぶとはどういうことかという捉え方も動いてきました。これを学習観の3類型(行動主義・認知主義・構成主義)と呼びます。知識を伝えるのか、習得させるのか、他者とともに作り上げるのか。この違いは、教師の役割にもICTの使われ方にもそのまま表れます。

学習観捉え方・教師の役割・対応するICT
行動主義教師=トレーナー知識は伝達されるもの。学習とは行動の変容。反復のドリル練習やCAIが対応する
認知主義教師=デザイナー知識は習得されるもの。学習とは既有知識との関連付け。マルチメディア教材や知的CAIが対応する
(社会)構成主義教師=ファシリテーター知識は他者とともに構築するもの。学習とは意味の変容。協働学習やCSCLが対応する
試験でのねらわれ方日本語教育でのコンピュータ利用は1970年代後半のCAI(コンピュータ支援教育)に始まり、2000年は「eラーニング元年」、2020年は「オンライン授業元年」と呼ばれ、いまは生成AIの利用へと広がっています。ICTの位置づけも教材から学習システム・学習環境へ、さらに学習者とともに考える知的パートナーへと変わってきたと整理されます。試験で狙われるのは①IT=情報処理/ICT=情報処理+通信の区別、②学習観と教師の役割(トレーナー/デザイナー/ファシリテーター)の組み合わせ、③2つの「元年」の年号の3点です。

インストラクショナルデザイン — 効果・効率・魅力

インストラクショナルデザイン(ID)は、教育活動の効果効率魅力を高めるための理論とモデルを集めたものだ、と説明されます。授業の良し悪しを教師の勘や経験だけに委ねず、目標・評価・活動の関係を筋道立てて設計しようという発想です。

3つの語はそれぞれ別の問いに対応します。効果=目標に到達できたか、効率=より短い時間・少ない負担で到達できたか、魅力=学習者がもっと学びたいと思えたか。このうち魅力を落として「効果と効率を高めるもの」とだけ書いた選択肢が、定番の誤りです。

IDのモデルは、どの学習観に立つかで顔つきが変わります。スキナーのプログラム学習は行動主義、ガニェの9教授事象は認知主義、コリンズの認知的徒弟モデルは構成主義に対応します。「IDは行動主義の産物なので今は使われない」という趣旨の選択肢は、この幅を見落としたものです。

ADDIEモデル — 5段階と修正のループ

IDのプロセスを最も広く共有された形で示したのがADDIEモデルです。分析・設計・開発・実施・評価という5段階の頭文字を並べたもので、コースづくりの手順そのものを表します。

段階そこで行うこと
分析Analysis学習者・ニーズ・学習環境・制約を調べ、何を目標にするかを見きわめる
設計Design目標を具体化し、評価の方法と学習活動の流れを決める
開発Development教材・スライド・課題・オンライン上の仕組みを実際に作る
実施Implementation学習者に対してコースを実際に行う
評価Evaluation目標に届いたかを確かめ、結果を前の段階に戻して作り直す
順序を問う問題への備え並べ替えの選択肢では設計と開発開発と実施の前後がよく入れ替えられます。「作る前に設計する」「実施は作ってから」の2点を軸にすれば切れます。また5段階は一方通行ではなく、評価の結果を前に戻す修正のループを含むこと、そしてコースデザインバックワードデザイン(目標→評価→内容)と同じく評価の設計が教材づくりより先に来ることも押さえておきましょう。

ガニェの9教授事象 — 一回の授業を9つに割る

ADDIEがコース全体の手順だとすれば、ガニェの9教授事象は一回の授業(一つの学習単位)の中身を並べたものです。学習は学習者の内部で起こる過程だと考える認知主義に立ち、その過程を外側から助ける外的条件を9つに整理しています。

まとまり9つの事象
導入第1〜3事象注意を引く/授業の目標を知らせる/前提となる知識を思い出させる
情報提示第4〜5事象新しい事項を提示する/学習の指針を与える
学習活動第6〜7事象練習の機会をつくる/フィードバックを与える
まとめ第8〜9事象学習の成果を評価する/保持と転移を高める
9事象と反転授業この4つのまとまりは反転授業の設計とそのまま重なります。導入と情報提示にあたる部分を授業前のオンライン教材に移し、学習活動とまとめを教室で行う——これが反転授業です。反転授業を「動画を見せるだけの手法」と説明した選択肢が誤りになるのは、教室側に置かれる練習・フィードバック・評価こそが目的だからです。割り振りを逆にして「練習とまとめを事前に、説明を教室で」とした選択肢も定番の誤りです。

ARCSモデルとメリルのID第一原理

設計の枠が整っても、学習者が乗ってこなければ学びは進みません。動機づけの側面を4つに整理したのがARCSモデルです。頭文字の順に働きかけるよう設計します。

要素ねらいと具体例
A 注意Attentionおもしろそうだと感じさせる。活動に変化をつけ、単調さを避ける
R 関連性Relevance自分に関係があると感じさせる。学ぶ内容が仕事や生活のどこで役立つかを示す
C 自信Confidenceやればできそうだと感じさせる。成功の機会を小さく刻んで積ませる
S 満足感Satisfactionやってよかったと感じさせる。評価の基準を公平に保ち、努力が報われるようにする
動機づけと設計原理各要素には3つずつの下位項目が置かれています。事例文を読ませて「これはどの要素に当たるか」を選ばせる形式が作りやすく、変化性=注意目的指向性=関連性成功の機会=自信公平さ=満足感あたりが典型です。もう一つ、多くのID理論に共通する要素を抜き出したものがメリルのID第一原理です。現実世界の課題を中心に置き、その周りに活性化(既有の知識・経験を呼び起こす)・例示(実例で示す)・応用(実際にやってみる)・統合(自分の生活や仕事に取り込む)を配置します。課題から出発する点で構成主義寄りであり、TBLT日本語教育の参照枠の行動中心アプローチと発想が近いことも押さえておくと、区分4の他の項目とつながります。

ブルーム・タキソノミー — 旧版と改訂版

教育目標そのものを分類する枠組みがブルーム・タキソノミーです。1956年にブルームらが認知領域・情意領域・精神運動領域の3領域を立て、このうち認知領域を6段階に並べました。旧版の6段階は知識→理解→応用→分析→統合→評価で、最上位は評価です。

2001年の改訂版では、認知過程の6段階が動詞で言い直され、最上位が創造に入れ替わりました。さらに「何を学ぶか」を示す知識の次元(事実的・概念的・手続き的・メタ認知的の4種類)が加わり、認知過程6×知識4の二次元のマトリックスになっています。増えたのは知識の次元であって、領域が3つから増えたわけではありません。

目標の書き方もあわせて問われます。教育目標を明確にするための3要素は行動・条件・基準で、「何ができるか」「どんな条件のもとで」「どこまでできれば達成といえるか」を書き分けます。評価とテストの分野と重なるところなので、切り口の違いを意識しておくと混乱しません。

旧版の最上位=評価、改訂版の最上位=創造。この新旧の対比が、この項目で最も作りやすいひっかけです。「改訂版で領域が4つになった」といった選択肢も誤りで、4種類になったのは知識の次元のほうです。

遠隔教育の理論とオンライン授業の分類

教師と学習者が離れた場所にいる状態で行われる教育を遠隔教育と呼びます。時間(同じ/違う)と空間(同じ/違う)の2軸で授業を整理すると、遠隔教育は空間が違う側にまとまり、時間が同じ場合も違う場合も含みます。歴史的には郵便による通信教育、ラジオ・テレビによる放送教育、インターネットによるeラーニングの3世代に整理され、その根には教育機会の均等と拡大、生涯教育という理念があります。

ここで注意したいのが、オンライン授業と遠隔教育は同じではないことです。オンライン授業はインターネットが介在するものを指すので、郵便や放送による遠隔教育は含みません。制度上の呼び方も決まっていて、対面の授業は面接授業、オンラインの授業はメディアを利用して行う授業と呼ばれます。平成13年文部科学省告示第51号(いわゆるメディア授業告示)では、面接授業と同等と認められるための要点として双方向性が示されました。

対面とオンラインの組み合わせ方には、ブレンド型・ハイブリッド型・ハイフレックス型という呼び分けがあります。ブレンド型は形態や内容の異なる学習を組み合わせるもの全般を指す広い語で、反転授業はその代表例です。ハイブリッド型は、同じ回の授業を教室にいる学習者と、同期でつないだオンラインの学習者に同時に行うもの。ハイフレックス型はそこに録画のオンデマンド配信を加え、学習者が対面・同期オンライン・オンデマンドのどれで参加するかを自分で選べるようにしたものです。区別の決め手は学習者が参加形態を選べるかどうかで、その自由をもつのはハイフレックス型だけです。

オンライン授業そのものの形は、同期型と非同期型という時間の軸と、一方向か双方向かという情報の流れの軸を掛け合わせて4つに分けられます。

タイプ時間 × 情報の流れ
ライブ配信型同期・一方向決まった時刻に配信を視聴する。教師から学習者への流れが中心
同時双方向型同期・双方向決まった時刻に集まり、その場でやり取りしながら進める
オンデマンド配信型非同期・一方向録画教材などを各自の都合のよい時間に視聴する
オンデマンド課題提出型非同期・双方向各自の時間で学び、課題の提出と教師のコメントでやり取りする
遠隔教育のひっかけ4点①「非同期=一方向」は誤り。課題とコメントのやり取りがあれば非同期でも双方向です。②同価値理論は、遠隔の授業を対面と「同型」にするのではなく「同価値」の学習経験になるよう設計すべきだとする立場。③交流距離理論は、教師と学習者の隔たりを物理的距離ではなく心理的な距離と捉え、対話・構造・学習者の自律性の3つでその大きさが決まると考えます。自律性の低い学習者には対話を増やし構造を強めて距離を小さくするのが原則で、大小を逆にした選択肢が定番です。④学習者が「そこにいる」と感じられるかを扱うプレゼンス理論では社会的存在感が中心で、探求の共同体のモデルでは社会的・教授的・認知的の3つの存在感が挙げられます。

試験に向けての整理

この記事の内容を、そのまま解答の道具として圧縮しておきます。

IT=情報処理/ICT=情報処理+通信。②学習観は行動主義(伝達・トレーナー)/認知主義(習得・デザイナー)/構成主義(構築・ファシリテーター)。③IDが高めるのは効果・効率・魅力。④ADDIEは分析→設計→開発→実施→評価+修正のループ。⑤9教授事象は導入3・情報提示2・学習活動2・まとめ2で反転授業に対応。⑥ARCSは注意・関連性・自信・満足感。⑦ブルームは旧版の最上位=評価/改訂版=創造、改訂版は認知過程6×知識4。⑧遠隔教育は空間が違う教育で、オンライン授業はその一部。⑨オンライン授業4タイプは同期・非同期×一方向・双方向。⑩ハイフレックス型だけが学習者に参加形態の選択の自由を与える。

この10点が言えれば、この領域の選択肢はほぼ機械的に切れます。個々の用語は用語集の各ページで確認してください。

この記事に出てくる用語

1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。

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