日本語教員プラネット 日本語教員試験 対策のオンライン道場

異文化適応とカルチャーショック — 新しい社会に入るとき、何が起きるか

区分1 社会・文化・地域 ・ 日本語教員試験 基礎試験の出題範囲

この分野は、モデルの名前も段階の名前も似ていて、UとWの入れ替え段階の並べ替えだけで簡単に落とされます。しかも用語だけを覚えていると、事例問題で「この学習者はいま何が起きているのか」「教師はどう関わるべきか」を問われたときに手が止まります。この記事では、文化とは何かという前提から始めて、学習者の内側で起きること受け入れる側に求められることを一本の線でつなぎます。

文化とは何か — 見えているのは氷山の一角

異文化を扱うとき、文化はしばしば氷山にたとえられます。水面の上に出ているのは、料理、服装、行事、あいさつの言葉といった目に見える部分。けれども水面下にはずっと大きな塊が沈んでいて、そこにあるのは、時間をどれくらい厳密に守るか、人とどれだけ距離をとるか、言いにくいことを遠回しに言うか率直に言うか、目上の人にどう接するか、何を失礼と感じるか——といった、当人が意識すらしていない前提です。

摩擦が起きるのは、たいてい水面下です。見えている違いは前もって学べますが、見えない部分は「そういうものだ」と信じ込んでいるため、そもそも違いとして認識されません。だから、ずれは文化の差ではなく相手の人格の問題として受け取られます。「あの人は失礼だ」「やる気がない」「なれなれしい」といった評価の多くは、実のところ文化的な前提のずれから生まれています。

この分野の概念は、どれもここに根を持っています。異文化理解の出発点は、相手の文化についての知識を増やすことではなく、自分が何を当たり前だと思っているかに気づくことだという一点です。以下に出てくるモデルも用語も、この土台の上に並んでいると考えてください。

カルチャーショック — 「驚き」ではなくストレス反応

新しい社会に入った人に最初に起きるのがカルチャーショックです。文化人類学者のオバーグ(Oberg)が広めた概念で、あいさつ、距離のとり方、暗黙のルールといった慣れ親しんだ文化的な手がかりが通じない環境に置かれたときに生じる、不安・混乱・いらだち・無力感などの心理的な反応を指します。

名前から誤解されやすいのですが、これは単なる「驚き」ではありません。自分の行動の指針が失われることによるストレス反応です。頭痛、不眠、過度の疲労といった身体症状として出ることもあれば、ホスト社会への強い批判や母国の理想化という形をとることもあります。教室で「最近休みがちだ」「日本の悪口ばかり言う」「同国出身の友人としか話さない」という変化として現れるのは、この段階にいるサインかもしれません。

そしてこの分野で最も重要なのが、カルチャーショックは異常ではなく、適応の過程で誰にでも起こる正常な段階だという捉え方です。したがって、本人の努力不足や性格の問題として扱う対応は誤りになります。事例問題では「まず、これは正常な過程だと理解する」「そのうえで、この時期に合った関わり方を選ぶ」という二段構えが、そのまま正解の形になります。

UカーブとWカーブ — 時間の流れで描く

この過程を、満足度の変化としてU字の曲線に描いたのがUカーブモデルです。リスガード(Lysgaard)が示したもので、蜜月期(ハネムーン期)→ ショック期 → 回復期 → 安定期(適応期)と進みます。来日直後は何もかもが新鮮で満足度が高く、生活が始まると違いに直面して落ち込み、対処のしかたを身につけるにつれて回復し、やがて落ち着く、という見方です。

ここに帰国後の再適応を加え、U字を二つつないだのがWカーブモデルで、ガラホーン夫妻(Gullahorn)によるものです。滞在先に適応したあと母国へ戻ると、変わった自分と変わらない母国とのあいだにずれが生じ、ふたたび落ち込みが起きる。これをリエントリーショック(逆カルチャーショック)といいます。「異文化に慣れれば終わり」ではなく、帰国後にもう一度山と谷がある——ここがこのモデルの主眼で、長期留学生や帰国児童生徒の支援を考える枠組みとして問われます。

曲線が時間の流れを描くのに対して、その人が新しい社会とどう向き合うかを類型として描いたのがベリー(Berry)です。ベリーは、自文化を保持するか、ホスト社会との関係をもつか、という二つの軸を組み合わせ、文化変容(アカルチュレーション)の態度を統合・同化・分離・周辺化の四つに整理しました。両方が高い統合がもっとも適応的とされます。

四類型は、どれがどの態度かを入れ替えた選択肢が定番です。同化は自文化を手放してホスト社会へ、分離は自文化を守ってホスト社会と関わらない、周辺化はどちらも失う、と定義で押さえてください。そして異文化適応とは、こうした過程を経て心理的な安定と社会的な機能を回復・獲得していくことであり、移住者だけの課題ではなく、受け入れる側の変化も含む双方向の過程だとされます。

モデル描いているもの
Uカーブモデルリスガード滞在先での適応を一つのU字で描く。蜜月期 → ショック期 → 回復期 → 安定期
Wカーブモデルガラホーン夫妻Uカーブに帰国後の再適応を足して二つのU字に。帰国後の落ち込みがリエントリーショック
ベリーの四類型文化変容の態度自文化の保持とホスト社会との関係の二軸で統合・同化・分離・周辺化。統合がもっとも適応的
最頻出のひっかけUとWの取り違えと、段階の並べ替えが最頻出です。もう一つ、曲線を法則のように扱った選択肢にも注意してください。これはあくまで典型的な傾向であって、すべての学習者が同じ経路をたどるわけではありません。蜜月期がないまま最初から落ち込む人もいます。

エスノセントリズムと文化相対主義 — ものさしを疑う

そもそも、なぜ違いが「劣り」に見えてしまうのか。それを説明するのがエスノセントリズム(自民族中心主義)です。社会学者のサムナー(Sumner)が用いた語として知られ、自分の属する集団の文化を当然の基準とみなし、他の文化をそこからの逸脱、あるいは劣ったものとして評価する態度を指します。

やっかいなのは、これが自覚されにくいことです。「ふつうは〜する」「常識では〜だ」という言い方のなかに、それは静かに紛れ込みます。教室では、学習者の行動を自分の文化の物差しで解釈してしまう教師自身の視点として問題になります。「質問しないのは消極的だ」「時間にルーズだ」——これらは観察ではなく、すでに評価です。

その対概念が文化相対主義です。それぞれの文化には固有の価値と論理があり、ある文化の基準で他の文化の優劣を判断することはできない、文化はそれ自身の文脈のなかで理解すべきだ、とする立場で、多文化共生や異文化間教育の理論的な土台になっています。

ただし「どんな慣習も無条件に肯定する立場」という説明は行き過ぎた言い換えで、選択肢としては誤りにされやすい部分です。判断を保留して文脈から理解しようとする態度であって、価値判断の全面放棄ではない、と押さえてください。

この態度を訓練する具体的な方法として、DIE法がよく出題されます。出来事を描写(Describe)・解釈(Interpret)・評価(Evaluate)に切り分けるもので、「彼は目を合わせなかった」が描写、「恥ずかしいのかもしれない/失礼なのかもしれない」が解釈、「よくない態度だ」が評価にあたります。人はこの三つを一瞬で混ぜてしまうため、解釈は複数あり得ると気づかせるところに中心があります。段階的な発達として捉えたのがベネットの異文化感受性発達モデル(DMIS)で、否定・防衛・最小化という自民族中心的な段階から、受容・適応・統合という文化相対的な段階へ進むと説明されます。

立場ものの見方
エスノセントリズム自民族中心主義・サムナー自文化を当然の基準とし、他文化をそこからの逸脱・劣ったものとして評価する。自覚されにくいのが特徴
文化相対主義多文化共生の土台文化には固有の価値と論理があり、優劣は判断できないとする。判断を保留し、文脈のなかで理解しようとする

ステレオタイプと、ホスト社会の側の課題

個人ではなく集団としてまとめて見てしまう働きがステレオタイプです。リップマン(Lippmann)が『世論』(1922)で広めた概念で、ある集団に属する人々についての単純化され固定化されたイメージを指します。複雑な世界を効率よく処理するための認知の枠組みという側面をもつため、なくすことは難しく、まず自分が持っていると自覚することが出発点になります。

注意したいのは、内容が肯定的であってもステレオタイプであることに変わりはない、という点です。「◯◯人はまじめだ」という評価も、個人差を見えなくするという点では同じ働きをします。試験では三つの層の区別がねらわれます。認知の枠組みがステレオタイプ、そこに否定的な感情がともなったものが偏見、実際の行動として現れたものが差別です。この対応を入れ替えた選択肢が定番のひっかけです。

日本語教育に引きつけると、教材の会話文や役割語がステレオタイプを再生産していないか、という観点で問われます。外国人がいつもカタコトで話し、女性がいつも「〜だわ」と話す教材は、言語を教えながら固定したイメージも同時に教えていることになります。

そしてもう一方の当事者がホスト社会、つまり受け入れる側の社会です。適応は移住者だけが努力して達成するものではなく、制度のつくり、情報の出し方、住民の態度によって大きく左右されます。やさしい日本語の取り組みや多文化共生の施策は、まさにこのホスト社会の側の変化を促すものとして位置づけられます。

したがって「適応とは、ゲストがホストに合わせること」と一方向で説明した選択肢は誤りです。地域日本語教室を、教える/教わるの関係ではなく双方向の対話の場と捉える近年の考え方も、この前提の上に立っています。

試験でのねらわれ方三層の区別(ステレオタイプ=認知/偏見=感情/差別=行動)は必ず対で覚えてください。あわせて「肯定的な内容ならステレオタイプではない」「適応は移住者の側の課題である」という二つは、いずれも誤りとして切れるようにしておきます。

試験に向けての整理

この記事の流れを、解答の道具として圧縮しておきます。

①カルチャーショックはオバーグ。単なる驚きではなくストレス反応で、誰にでも起こる正常な過程。②Uカーブ=リスガードで、蜜月期→ショック期→回復期→安定期。Wカーブ=ガラホーン夫妻で、帰国後のリエントリーショックまで含む。③ベリーの四類型=統合・同化・分離・周辺化で、統合がもっとも適応的。④エスノセントリズム=サムナー、対概念が文化相対主義。ただし相対主義は無条件の肯定ではない。⑤ステレオタイプ(認知)/偏見(感情)/差別(行動)の三層。⑥適応は双方向で、ホスト社会の側も変わる。

事例問題は「この学習者にいま何が起きているか」と「教師は何をすべきか」の二段構えで問われます。まず段階や類型を当て、そのうえでその段階に合った支援を選ぶ、という順で読むと迷いません。個々の用語は用語集の各ページで確認してください。

この記事に出てくる用語

1語ずつ短く確認したいときは、用語集のページへ。

この項目の練習問題を解く基礎試験の道場で「社会・文化・地域」を選ぶと、この記事の内容が出題されます
← くわしい解説の一覧へ